本質を理解できていないやる気のある卒後5年以内の歯科医師は、「幸福になる」ことについて大きな勘違いをしている場合が多い。
院長が幸福になる方法とは
「年商を上げる事」
「素晴らしい症例を作る事」
「豪邸や外車を手に入れる事」
などという事ではない。
それはとても単純だが気づきにくい事であり、「日常に感謝する」という事だ。
朝起きて朝食を食べる事ができ、仕事を通して社会とのつながりがあり、夜は暖かい布団で寝る事ができる。
それだけで本当は幸せであるはずなのに、人は多くの事を望み過ぎてしまう。
「売り上げをもっとあげるには?」
「衛生士、歯科医師をもっと獲得するには?」
「患者をもっと増やすには?」
「周りの歯医者に勝つには?」
すでに感謝できる日々があるのにそのことに目をむけず「もっと」を常に追求している。
「もっと」を追求した先にあるのは全く同じ「もっと」である。
幸福の種類については過去の記事を見ていただきたいが、売り上げや承認欲求を目指すドーパミン的な幸福(承認欲求、物欲など)は達成しても持続しない。
例えば意識高く努力をつみあげて目標の売り上げを達成したとしても、またもっと高い次の目標がでてくるだけである。
物欲もそうだ。欲しい車を買う時を思い浮かべてほしい。
車が手に入った瞬間が高潮のピークであり、それ以降はどんどん嬉しさが減り、また次欲しい車を選んでしまっている。
売り上げや年収などの数字を意識している場合は常に「人との比較」になっており、周りからどう見られるかを意識している。そのように人と比較している時点であなたは自分の人生をあるいていないのだ。
周りからどう見られるかばかりを意識すると不幸の入り口に立つ事になる。
「年商が高いからカッコいい」
「より高い外車を買えるから凄い」
「豪邸に住んでいるから偉い」
「人は周りと比較する」という性質や「院長としての不安」を上手く刺激して利益をとろうとしてくるさまざまな業者も存在する。
そのような業者は売り上げをあげる事が正義かのように接してきて、利益をむさぼり取ろうとしてくる。そういう業者には少し冷めた目で見てから付き合うといいだろう。
世界に歯医者が1件しかなければ売り上げなど意識しない。
周りと年商や患者数を比較せず、ただ自分と家族が生きていく上で必要なお金だけを稼ぐ事で満足するはずだ。
足るを知る
人生において「足るをしる」とはとても大切な事だ。
その意味は現状に満足しそれ以上を望まず、日常に感謝をするという思考である。
歯科医院経営に当てはめるならば、年商1億スタッフ10人程度でおさえ、余力があってもそれ以上売り上げ増加を目指さないという事になる。
ここで「年商1億」という数字に気をつけてほしい。多くの勤務医がそこまでいくのが難しいと思い込んでいるのではないだろうか?
「年商1億以上の歯科医院は10%しかいないから常に努力しないといけない」などと煽ってくる歯科医師や業者も多いため、若手歯科医師は勘違いをしてしまっているが、それはすべての歯科医院が年商1億以上を目指しているわけではないという事である。
子育ても終わりある程度貯蓄のある高齢院長や、若手でもプライベートを重視したい院長は年商1億など目指していないし、それ以外の院長も年収2000万程度までいけば満足する人が多いように感じる。
年商1億を目指していない院長
・高齢院長
・お金に興味のない院長
・プライベート重視したい院長
・歯科以外で収益をあげている院長
私は30代後半であるが同期はほぼ開業し、そしてそのほとんどがある程度の軌道にのっている。
多くが年商1億前後の歯科医院の院長であるが、みんなが口をそろえていう事は
「お金より時間がほしい」
世の中というものは母体が大きい集団が生活しやすいようになっており、平均年収あたりの人達が比較的生活しやすいように感じる。年収2000万程度いけばほとんどの歯科医師はお金という面では満足する事になる。
その程度の年収であれば子どもを私立歯学部に入れる事もできるし、日常生活に何不自由ない暮らしを維持できる。派手な生活をするのであればより高い年収が必要であるが、「お金を使う」事は「お金を稼ぐ」以上に難しい。
「足るを知る」という思考は歯科医院経営においてイケイケだと感じている時期により強く意識していただきたいのだが、皮肉にもそんな時期には誰も考えないだろう。衛生士が増えてチェアーをもっと増やすと考えている時にこそ意識してもらいたい。
特に開業1~2年で年商1億を到達する院長は「自分に経営の才能がある」と勘違いしてる場合が多く、そんな時期に業者にのせられて「年商〇〇セミナー」などを開催している。そのセミナーで自分がいかに努力したかをどん底から這い上がったヒーローでも語るかのように発表し周りから賞賛を得てしまっている。
YouTubeにもたかが数億の年商の院長が自分の成功を語る動画がアップされているが、保険制度や国家資格に守られている新規参入の少ない歯科業界においては 立地、SNS、集患、求人たったこれだけで年商1億以上など簡単にいく。
自分が経営者として優れていると勘違いするから無駄に売り上げを目指し、他人と比較し優劣を意識してしまう。
年商1億到達したら「足るをしる」これ以上は目指さないという意識が幸福になるヒントになるのだ。
仏教
なぜか現状に満足することなく常に向上する事がカッコいいと思われている現代だが、そんな事に疲れてしまっている院長も多いだろう。
「前年比〇〇%成長」
「短期目標と長期目標をつくれ!」
「歯科医院としてのビジョンを!」
かくいう私も5年ほど前はこのような目標をたてていた。
「〇年後に歯科衛生士、歯科医師を〇人採用し、年商3億を目指す」
などという事を恥ずかしげもなく語っていた。いまでは完全に黒歴史だ。
院長の自己実現のために無駄に売り上げやビジョンを語るとスタッフは疲弊してしまう。
そもそも目標やビジョンというものは自分がただ生きているうちに自然と内側からわいてくるものであり、セミナーや本を読んだくらいで生じるやる気やビジョンはいつわりの自分なのだ。
稀にいる本当に歯科治療が好きな先生は、たまたま自分の好きな治療を勉強していたらたまたま有名になり、そうなりたいという歯科医師が集まりたまたま規模が大きくなっただけの事だ。
「足るを知る」という考えに至る上で重要な事が仏教の「一切皆苦」という思考である。
ちなみに私は宗教にはまっているわけはないが、自分の人生に疑問を持った時に仏教の考えは生きるうえで参考になると考えているのでお伝えしよう。
一切皆苦
世の中、自分の人生は思い通りにならない
「一切皆苦」とは人生は思い通りにならず、すべての事に苦しみがあるという事だ。
この思い通りにならない苦しみの種類を「四苦八苦」という。
ここで重要な事としては人生は思い通りにならずすべての事に苦しみがあるのであるなら、適当に生きていけばいいなどという事ではない。
その苦しみの本質にしっかりと目を向け受け入れなければならないという思考である。
四苦
生:生きる苦しみ
老:老いる苦しみ
病:病気の苦しみ
死:死んでいく苦しみ
八苦
求不得苦:お金、地位などが手に入らない苦しみ
院長は?借金が2億もあって苦しい。近くに歯医者ができたから売り上げが落ちた
怨憎会苦:妬み恨みを抱く苦しみ
院長は?同期の歯医者がめちゃくちゃ流行っていてウザイ
愛別離苦:愛する人と別れる苦しみ
院長は?せっかく育てたスタッフが辞めてしまった
五蘊盛苦:心身をコントロールできない苦しみ
院長は?自分が働かないと売り上げがないから働かないといけない
人生において苦痛はさける事ができない。なぜならば生きる事は苦しみだからだ。
「四苦八苦」とはまさに人生は苦しみから避ける事ができない事を表している。
私なんかより何百倍も頭の良いであろう人が考えた仏教でそう言っているのだから多分人生はそういうものなのだと思う。
そしてその「一切皆苦」から解放される思考としてあげられるのが諸行無常、諸行無常、涅槃寂静の3つである。
諸行無常:すべての物はうつり変わると認識する事、永遠に続く事などない。
院長は?開業して最初は順調でもいずれは売り上げがおちる
どんなスタッフもいずれは辞める
諸法無我:すべては繋がっていると認識する事
院長は?医院経営はスタッフがいないと成り立たない
スタッフ、患者と繋がりを感謝する
涅槃寂静:煩悩を捨て安らかになる
院長は?周りから凄い歯医者と思われたいという認識を捨てる。
院長としての苦しみや苦悩を理解しそれをしっかりと見つめる。そして永遠に続く事などないと考えて、物事に対する執着を捨てた時に、院長としての本当の幸福が待っている。
一見順調にいっているように見える歯科医院でも様々な苦労があるし、常に順風満帆に経営できているわけではない。様々な事が移り変わっていくのだ。しかしそのような中でも患者やスタッフと繋がっているという認識をもち、煩悩を捨てると穏やかに過ごすことができる。
私も歯科医院経営に関しては羨ましがられる事もあるが、継承時はかなりトラブルがあった。
継承は患者がついていて楽だと思われるが、私からすると新規開業の方が楽である。スタッフがいなくて苦労する医院はあるが、患者が来なくて苦労する医院は田舎ではほとんど聞かない。
私も経験したが父親が信頼を置いているチーフスタッフ達が、継承する院長と合わないという事はよくある。
お局になった勤続年数20年以上のスタッフを解雇したり、父親やチーフ、既存スタッフや新規雇用スタッフとの間を取り持つのにかなり苦労した。
最初は院内の司令塔達がいなくなるとトラブルが多発するかもしれないと考えていたが、蓋を開けてみると全くそんな事はなかった。むしろ他のスタッフが自立し色々な事が好転したし、なにより私のストレスが激減した。
父親が信頼しているスタッフと自分が信頼するスタッフは全然違うという認識で、継承するといいだろう。
話をもどすと、諸行無常とはすべての事は移り変わるという意味だが、これはいい事がずっと続かないというだけの意味ではない。いい事と同じように悪いこともずっとは続かないのだ。
これは完全に私の感覚なのだが、いい事も悪い事も3年の周期があるように思える。3年たつと色々な事が良くも悪くも変化している。
もう一つ院長を苦しめる思考として「ネガティビティバイアス」という言葉がある。
ネガティビティバイアス
人はポジティブな出来事や情報よりもネガティブな出来事や情報に注意を向けやすく、またそれが記憶にも残る現象
人間はどうしてもネガティブな事が目につきやすい。それは狩猟時代に他の動物から身を守るためにネガティブで警戒心が強い方が生き延びる確率があがったためらしい。
院長をしていると勤務医時代よりもスタッフの行動が気になる人は多く、それもネガティブバイアスが原因であるので、プラスに捉えるように意識する事が大切だ。
例えば、コップに半分の水が入っていたとして「半分も入っている」と考えるか、「半分しか入っていない」と考えるかは人それぞれだ。
コップに半分入った水を「半分も入っている」と考えるような思考のクセを身に着けよう。
スタッフがやめる→さらに優秀なスタッフと出会うチャンス
アポが空いている→普段やらない作業ができる
スタッフが私語をしている→仲の良い職場
スタッフ同士が揉めている→よりよい組織になるための自浄作用
今回は幸福になる思考について説明した。
歯科という狭い世界で過ごしていると、多くの事を見過ごしてしまう。私は仕事以外では趣味をつくり、色々な職業の人達と交流があるが、その時間はとても有効だ。
それは「異業種との交流が歯科に役立つ」などという薄っぺらい意識高い系の思考ではなく、心の底から純粋に楽しめる場所があるという発見である。
この発見はどんなに有名な歯科セミナーよりも役に立つ。
歯科業界のような狭い世界で周りの評価を気にして、常に向上心をもったり現状維持をしようとむやみにもがくといつかは絶望してしまう。「人生なんか思い通りにいかないし、状況などすぐに変わる」という思考を持ち、今ある地位や年収に固執せず状況によって経営スタイルを変えるという思考でいよう。
ちなみに私はいずれくる南海トラフが起きた時には再度歯科医院を立て直す気はあまりない。スタッフにやってほしいと頼まれた場合は再建するかもしれないが、自発的にやることはないだろう。
不謹慎だが、南海トラフ後に歯医者を辞めた自分がどういう人生を歩くか少し楽しみな部分もある。
人生100年時代に歯科医師だけで終わらせるにはもったいない。
次回は「院長が幸福度をあげる方法②~実践編~」をお伝えする。