今回は歯科医師の心理変化についてお伝えする。
現在私は30代後半であり歯科医師免許を取得してから10数年経っているが、この10年くらいの間に色々な心理変化を経験した。
心理変化と一言に言ってもそれはとても大きな変化であり、今まで自分が正解と信じていたものが一夜にして崩れ、不正解と思っていた事が正解になった。
もしかしたら今正解と思っている事も今後の人生で不正解になるかもしれないが、私が歯科医師になってからの10年ほどで起きた変化を説明する。
おそらくこの変化は私特有の物ではない。
私の場合は継承し医院が軌道にのった時期が同期よりも早かったため、周りよりも早く色々な事を経験している事もあり、周りの変化を少し俯瞰してみる事ができた。
そして周りもほとんどが私と同じ心理変化をたどっている事に気づいた。
歯学部生や若手歯科医師は将来どのような心理変化が起こるのかをあらかじめ知っておく事で、今の立ち位置を把握し現在の行動をより適切なものに変える事ができるだろう。
歯科医師の心理変化を知る
では順を追って心理変化を説明していこう。
歯科医師としてやる気が出る時期
歯科医師になったという事で多くの人がなぜかやる気を出す時期。
時期:研修医~勤務医3年目まで
行動:とにかく色々な治療をやりたい。セミナーを数多く受ける。居残り練習
口癖:この前〇〇の治療をやった。お金はいらない。
・研修医から1個目の就職先の時代に生じる可能性が高い。
・居残り練習をする事が成功への近道だと信じている。
・この時期によく聞く言葉は「最初の就職先が一番大事」「今努力すれば周りと差がつく」
・学生時代真面目だった人はそのまま真面目に勉強をしていくが、真面目ではなかった人達もなぜか歯科に対してやる気をだす。
・色々な事が新鮮で楽しいという事や歯科医師になった高揚感から歯科に多くの時間を割く。
・この時期に出会う院長達は大成功しているという印象がつくが、振り返ると対して成功していない院長もいた
・この時期にはじめて出会う院長達はほぼすべてが求人目的であり、そもそも歯科医師を雇用できる医院規模の院長と出会う事が多いため、一般的な院長よりも成功している人に出会う可能性は高い。しかし求人が目的なので「自分の医院がいかに儲かっているか」や「自分の医院に就職したらこんな技術が身に付く」などをかなり大袈裟に語っていたと感じた。
・友人達と集まり症例検討会をやる事になる。
私個人ではこの時期の先輩たちには未だに食事に誘ってくれる先輩たちも多いし、その人達は色々な事で成功しており自分の人生の方向性を考える時にとても参考になる。
この時期は歯科医師としてやる気を出す事が正解だと思い込み、多くの歯科医師が歯科に時間を費やすし、すべての事が真新しく出会う先生達が全員成功者に見えてくるが、甘い言葉に騙されないようにしよう。
アドバイスとしては給料は少ないかもしれないが月1万でもいいから投資をする事を覚えよう。
ちなみに私はこの時期から投資を始めた。
社会に出たばかりの歯科医師は「投資」「紙幣」の意味を全く理解できていない。
「金持ち父さん貧乏父さん」読んでお金と投資の仕組みを理解する事をおススメする。
ちなみに歯科医師は「貧乏父さん」にあてはまる。
歯科に慣れてくる時期
理想と現実に揉まれ歯科に慣れてくる時期
時期:勤務医4年目~8年目
行動:初めに就職した歯科医院に飽きて転職を検討する。セミナー参加の数は減る。
口癖:矯正、インプラントを経験したい。給料もっとほしい。
・1件目に就職した歯科医院で保険や自費補綴がそれなりにこなせるようになり、色々と現実を目の当たりにしている
・歯科医師1年目のような歯科に対するモチベーションはなくなり、給料や福利厚生が気になりだす。
・お金はいらないと言っていた人達が、金が全てではないが金は必要だと薄っすら気づく時期。
・将来開業するか?継承するか?勤務医か?の悩みが出てくる。
・この時期から開業継承する人が少しずつでてくる。
・治療は分からない事ばかりだが、それでも患者はある程度納得するしそれなりに給料はもらえるため治療に対して深く考えなくなる。
・この時期には多くの歯科医師が歯科への熱量が冷めてくるが、それは単に飽きるというだけでなく、結婚などの仕事以外の人生のイベントが発生してくるので歯科だけに向き合えなくなる。
・私はこの時期に治療への興味がなくなった笑
・あんなにやっていた居残り練習はいつの間にかやらなくなる。
・友人達と開催した症例検討会もやらなくなる。
・歯科医師になった時のやる気などなくなり、セミナーや勉強会がめんどくさくなる。そしてせっかく今までセミナーで勉強した事を忘れている。そもそも勤務医の時期に就職先の歯科医院で落とし込めない治療のセミナーにいく事など時間と金の無駄だったという事に薄っすら気づく。
多くの歯科医師が歯科に飽きてきて、他の事に目が向きだす。この時期は給料も上がり生産性の低いセミナーに行く事も少なくなるのでプライベートの時間にも余裕が出てくる。
結婚、出産、子育てが人生に入り込んできて歯科以外にも目を向ける必要が出てくる。
最低でもこの時期には投資を始めたほうがいい。10年後にとてつもなく大きな差がつく。
開業、継承で焦る時期
借金を背負い焦る時期
時期:歯科医師8年目~開業医3年目
行動:経営、開業セミナーに参加し始める
口癖:売り上げ、患者数、スタッフ数マウント
・この時期はやる気というよりも焦りという感情が強い。
・勤務医を10年ほど経験してもれなく皆が歯科に慣れていた時期からこの時期になるとやる気をだす。というよりも多少はやらないと借金を返済できない。
・規模拡大がカッコいいという風潮があり身の丈にあっていない開業をしてしまう人もチラホラいる。
・開業へのやる気など「立地」「求人」のみであるが、この時期は不安なのでそんな事は分からない。
・開業時に色々な治療ができる事が売り上げにつながると信じ手っ取り早く集患できそうなセミナーに参加する。具体的にはヒアルロン酸、リップアートなど。そんな付け焼き刃で経営が良くなる事などないのだが、その事実を知るにはまだ経験が浅すぎる時期。
・売り上げをあげるために手っ取り早い自費に目を向けやすくなる。
・年商1億という数字がとてつもない成功者が出す数字だと勘違いし、死に物狂いでやらないと到達できないと思い込んでしまう。
・セミナーで医院理念やクレド、スタッフ面談という話を聞き、それらをしっかりと落とし込む事が正しいと思い込む。
・人に任せる事が苦手な院長は忙しさで疲れてしまう(そもそも任せる事が苦手な人は勤務医をおススメする)
・開業後はスタッフの細かい部分が気になり、患者への対応、機器の使い方など色々と注意をしてしまう。
・かつて勤務医時代に院長がイライラしているのを見て自分はそうならないと誓ったはずなのに、院長になってイライラしない事がこんなに難しいのかと驚愕する。
・歯科医師で会うと過去の「こんな治療やってるマウント」と同じように「年商、スタッフ、患者数マウント」がでてくる。
・開業で成功して高級車や高級時計を身に着けている先輩がカッコよく見える。
・開業を意識する事で臨床セミナーよりも経営セミナーに行くようになる。
・利益を出さないといけないという焦りからオープニングスタッフと軋轢が生じ始める。
・歯科医師1年目から投資をしている人は不労所得を得ているという実感が出てくる。
歯科医師人生で2回目のやる気(焦り)がでる時期だ。
歯科医師になった時の歯科治療と同じで開業を目的に行動する事すべてが真新しく感じ楽しい部分も多い。
しかしこの時期も同じで高揚感に包まれてしまうので、たくさんの情報を吸収しようと頑張ってしまう。
その結果自分の性格とは似つかわしくない歯科医院が出来上がり苦しくなる事も多々あるので、やる気の出し過ぎには要注意が必要だ。
セミナーで正解と言われている経営スタイルも、根本的にはその院長に合っているかどうかが最も大切なのだ。
億を超える借金(最近は2億を超える事もある)をするため全員が必死になるが、開業の規模感や開業地は自分に合ったものにした方がいいだろう。
自分を過大評価しすぎると痛い目をみることになるので、俯瞰で物事を見る癖をつけよう。
自分に合った経営方針を!
開業に慣れてくる時期
歯科医師歴の中で2回目の慣れが出てくる時期
時期:開業4年目以降
行動:治療セミナーなどほぼ行かなくなり、求人系セミナーばかり行くようになる
口癖:メンテナンスが最強。何か楽しい事ない?
・開業し色々な世の中の仕組みが分かってくる
・開業にも慣れ飽きてくる。
・高級車や時計など簡単に買える事に気づくし、それらを持っていても見せる相手が少なくなってくる。
・郊外で開業している場合はメンテナンスで売り上げが確保される事がコスパ最強であると気づく時期。
・勤務医時代や開業数年では自費が全てと思っていた歯科医師もメンテナンス経営がベストであると気づく。
・上手く投資ができていれば資産が大幅に増えているため、スタッフの些細な事にはイライラしなくなる。
・あんなに時間をかけて考えた医院理念やクレドはいつしか忘れ去られ、スタッフ面談とは名ばかりのなんの生産性もない時間だけが残る。
・スタッフの出入りはあるがある一定の売り上げが確保されており、医院理念やリップアートなどを導入した事は単にスタッフの仕事を増やしただけだと過去を振り返る。
・このあたりの時期から自分に合った経営スタイルが分かってくる。
・セミナーなどで言っていた「やったほうがいい事」は「全て自分に合っているか?」から入ったほうがいいとわかる
・多くの開業医が年商1億を達成でき、過去に凄いと思った数字がこんなもんかと感じる。
・年商1億年収3000万くらいと到達してもさほど裕福になった気がしない。少し考えればわかる事だが、「裕福さ」とは他人との比較から生じるものである。この時期になると開業医は年収2000~3000万の人が多くなるので同じ業種と話をしていても裕福さはあまり感じない。
・ほとんどの歯科医師が同業者としか集まらなくなる。私のように趣味の友人と毎週会うという歯科医師はあまり聞かない。
・それぞれの人生のベクトルが徐々に変わってくる。
・歯科医院の売り上げが多い人や歯科治療でセミナーをやっている人が凄いとも思わなくなる。それが好きな人なんだなという感覚になる
・「何を目的に歯科医院経営をするのか?」このような疑問が生まれ始める。
・人に任せる事が苦手な院長は相変わらず忙しい毎日を送っているが、これが一生続くのかという不安にも慣れてくる。
・過去に受講したセミナーの講師達は時間がない中で症例をまとめていた事に驚くとともに、そこまで歯科に人生の時間を費やしているという事にまったく憧れないと感じる。
・人生はもっと色々な事を経験したほうがいいという感覚になる。
・結局は学生時代からの友人と馬鹿な話をしている時が一番楽しく、話をしている場所が学食から少し高い居酒屋に変わっただけで話の内容は全く変わっていないと気づく。
・患者よりもスタッフ問題がはるかに悩むという事実に気づき、求人に悩むようになる。。
・この時期くらいから歯科以外の事に目を向け始める。
この時期になると多くの歯科医師が歯科以外に目を向け始める。集患→求人→退職という決まり切った流れに飽きてくるのだ。
私の場合は継承したという事もあり、30代半ばにこのステージになってしまい、この年商2億歯医者/敗者の活動をスタートした。
そして30代後半になった現在も相変わらず治療には全く興味がなく、投資に興味があるので本格的に不動産投資に乗り出そうとしている。
もし不動産に詳しい人がいて、不動産投資のおススメのコニュニティーがあればぜひDMで教えてください!
心理変化への考察
今回は歯科医師としての心理変化について考察した。
もちろん今回の記事で説明する心理変化は全ての歯科医師にあてはまるものではない事は理解している。
365日歯科の事だけを考えているような歯科医師もいるし、私よりも臨床に興味がない歯科医師もいるだろう。
若手歯科医師はセミナーに行く機会が多いため「歯科治療が好き」な雰囲気のある30代以上の歯科医師に出会う事が多い。そのような場で出会う30代以上の歯科医師は「歯科治療が好き」というような雰囲気を出してはいるが、本当に歯科治療が好きな人かどうかは分からない。
なぜならばそのような若手歯科医師と出会う場に来る歯科医師の多くがリクルート目的であり、自分の歯科医院を選んでもらいたいと考えてそのような発言をしている場合が往々にしてあるからだ。
私が若手時代によく耳にした言葉がある。
「今勉強すれば将来が変わる」
「同期に差をつける事ができる」
この言葉には正しい部分と間違っている部分がある。
まず「今勉強すれば将来が変わる」という言葉だが、必要なのは量ではなくベクトルが最も重要なのだ。
例えば絵を描く事が好きな若者がいたとする。
その若者は絵を描く事が好きであり、絵を描く事で金持ちになりたいと考えていたとして、どんなに努力をして将来絵を描く事で金持ちになる事はかなり難しいだろう。
歯科医師でいえば根治が好きだからと言って、根治のスペシャリストになって金持ちになりたいはかなり難しい。
金持ちになりたければ矯正とインプラントを早くから学んだ方がいい。
つまり目的を達成するためには成長している分野を見極める事と、その分野にできるだけ早く身を置く事が大切なのだ。
「同期に差をつける事ができる」という言葉については、なぜ同期に差をつける必要があるのか?
このような言葉を使う院長が勘違いしているのは富を得るには周りから奪わないといけないという強迫観念だ。
生まれた瞬間から姿形も違う、親の資産も違う、個人に備わった得意不得意な分野も違う。
それなのになぜか同じスタートラインに立ち、同じゴールに向かっているといつからか勘違いしている。
個人が向くベクトルが違うのだからゴールも違うのだ。
さらに開業してからは
「疲れるから将来的には患者を減らしたい」という言葉もよく聞く。
この言葉にも私が疑問を持つ。
この言葉を要約すると、『今は若いから頑張って仕事をして体力が落ちてきたら自分の時間を優先したい』という事になるだろう。
私達は将来の事を考えその目標に向かい今努力する事はいい事であると教えられてきたが、果たしてそうなのだろうか?
”将来”よりも”今”に目を向ける事を考えたほうが現在が充実するし、将来を意識しすぎると今が全て”過程”になってしまうのではないだろうか。
私が思う正しい思考は
「今楽をしたいから患者を減らす」である。
そしてそのために今何をするかを考えるのだ。
開業医は患者を減らす事にかなり抵抗がある。当然売り上げが減るので抵抗があるのだが、それ以上に数字に囚われている院長が多い。
過去と比較して数字が下がる事を受け入れる事ができていない。
ちなみに当院は夕方と土曜の新患は受け入れていない。その理由は私が「今忙しくしたくないから」だ。
そして歯科治療には飽きたため空いている時間で「年商2億歯医者/敗者」の活動をしている。
さらに今後40代50代になり歯科医院経営で今までと同じ売り上げを維持するという事は体力的にかなり厳しい事も予想できるので、今は不動産の勉強を始めている。
若手時代にセミナーや学会に行き勉強をしたが、現実での成功とはそんなもので決まる事は非常に少ない。
個人の努力で状況を変える事ができる能力のある人を私はあまり見た事がない。
歯科医院の売り上げで20憶30憶を売り上げる先生は才能があると思うが、たかだか数億程度の売り上げはほとんどが運だ。
若手時代に努力をしてもしなくても、30代の開業医はだいたい年商1億で年収3000万ほどに落ち着く。
もちろん努力して大成功している歯科医師も知っているが、その人達の根底には「歯科が好き」「規模拡大が好き」という事があるのだ。
ほとんどの歯科医師が持っているであろう自分の生活をある程度豊かにしたいという程度の思いなら、若手時代に全く勉強などしなくてもだれでも到達できる。
若手時代に将来の成功を夢見て様々な努力をするが、結局のところ行き着く先はほとんど同じなのだ。
