今回は「運と実力」と題しその理論を説明する
参考文献
・no+e 成功は運か努力か才能か?についての考察 佐藤航陽
・YouTube 運>実力 Paranoiaパラノイア
・イグノーベル賞 運と実力の関係
・QUITTING やめる力 ジュリ・ケラー
・運の方程式 鈴木裕
これらを参考にして「運>実力」という事実を歯科業界に落とし込む。
世の中の歯科医師は大きく勘違いしている。それは臨床や経営で有名な先生は実力があるから成功していると考えてしまっているという事だ。
仮に私を成功者と認識している人がいるならハッキリ伝えるが、私は実力ではなく運の要素が大きいと感じている。
セミナーでは色々な先生達が努力によって現在の地位を確立したと話しているが、なぜそのような勘違いが起きるのか?
その原因は「自己中心バイアス」「生存者バイアス」で説明できる。
「自己中心バイアス」がかかり自分のやった事を過大評価してしまい、「生存者バイアス」がかかり自分の努力で成功を勝ち取ったと誤解してしまう。
例しては、同棲している夫婦やカップルに「家の家事を自分が何%やっているか」と質問したとところ男女どちらも約70%と回答し、合計は100%を超えてしまっている。
つまり人は自分がやった事を過大評価してしまう傾向にあるのだ。
臨床に全く興味のない私がある程度の規模の歯科医院を経営できているのは完全に運である。
たまたま私立歯学部に行ける財力のある家に生まれた
たまたま田舎の歯科医院を継いだ
たまたま奨学金制度をやっている歯科医院のHPを見て自院に取り入れた
たまたま奨学金を希望する助手と巡り会った
たまたまメンテで経営が成り立ち福利厚生を整える事ができた
たまたま色々な出会いからDr、DHが勤務してくれた
たまたま売り上げがあがった
たまたま研修医時代から投資をはじめて、歯科経営以外で資産形成ができたので、日々イライラしなくなった
このような運が重なって私の現在がある。
しかし世の中で「成功」とみなされている歯科医師はそれを認識できていない。
諦めずに常に努力したから
若手時代に居残り練習をして頑張ったから
休日にセミナーに行き勉強したから
患者を第一に考え臨床に取り組んだから
常にスタッフの事を考えたから
プライベートの時間を削り臨床に取り組んだから
このような事を言う歯科医師が後を絶たないし、SNSではそこら中に「努力」「継続」などという言葉が並んでいる。
そのような発言をする「成功者」っぽい人は自分の実力で成功したと誤解してしまっているのだ。
ただ単に知識がなく勘違いをしているだけなので、温かい目で見てあげよう。
恥ずかしながら5年前の私も成功を追い求め、それは実力や努力で決まると勘違いしてしまっていた。
ブログやSNSで偉そうな事を言っている私を凄いと評価してくれている方もいるかもしれないが、そんな事は全くない。
承継やスタッフ問題で悩み、苦しみ、ストレスで夜寝れなくなる事があった敗者だからこそ、その経験を活かして情報を発信できているのだ。
人生が運ゲーであるという事実
まずは「運>実力」であるという事を証明するために、人生が運ゲーであるという事実をお伝えしよう。
人生が運ゲーであるという事を証明した統計は数多くある。
・年収は生まれた国、地域できまる
・ルックスがいいと美女は8%、美男は4%ほど平均的な人よりも所得が高い
・ルックスが下位15%の女性は平均的な女性よりも所得が4%低い
・ルックスが下位15%の男性は平均的な男性よりも所得が13%低い
・子どもの頃の成績が良かった人ほど所得と地位が高くなる
・4.5.6月生まれの方が人生で成功しやすい
・プロ野球選手は4月生まれが最も多く、2月生まれが最もすくない。その差は2倍である。
歯科医師は多くが年収数千万であるが、その多くが一般的な職業についた場合は今の年収以下になるだろう。
それは歯科医師というとても簡単に年収を上げる事ができる資格をとる事ができたからだ。(あまりにも簡単なのでこれから開業する先生達は経営コンサルに無駄なお金を払わないようにしてほしい)
人生は運ゲーであるという現象は歯科医師になってからもわかる。
歯科医師のキャリアの中で最も意識高く勉強している時に、たまたまインプラントやマウスピース矯正という技術が世の中に現れてたまたま興味を持った。
そしてそれらは高収益を生むため高い給料でスタッフを雇えるし、治療が好きという性格なら色々な学会で発表し有名になれる。
郊外型の歯科医院にもそれはあてはまる。
歯科医院にメンテナンス(SPT、口管強)という概念ができたおかげで、多くの歯科医院が田舎でも売り上げを伸ばす事ができている。これらの保険点数がついたおかげで年商1億という数字がかなり簡単になった。(あまりにも簡単なのでこれから開業する先生達は経営セミナーに無駄なお金を払わないようにしてほしい 重要事なので2回言う)
ちなみに治療に興味のない私もメンテナンスという概念がない時期に開業したなら、年商2億は到達していないだろうし、年商〇億というセミナーをしている先生達のほとんども私と同じで、年商6000万くらいで毎日嫌々治療をしているはずだ。
歯科医師のキャリアの中でどんなタイミングで”興味のある治療”や”人”に出会うかがかなり重要であり、それは自分の努力ではどうする事もできないのである。
歯科医師としての成功も運ゲー
成功者はストーリーを作り上げている
成功者と言われる人は自分の過去を語る時に色々な事を美化し、よりドラマチックなストーリーにしてしまっている。成功者として奉られるため、自分の過去を湾曲して講演をおこなっているのだ。
例えば歯科医師で経営者としてある程度の成功を収めている人は「開業場所」の恩恵が大きい。
それは運によってたまたま「いい場所」が出てきただけなのだが、何年もかけて必死になって探したという表現をしている。
歯科医師数求人で成功している歯科医院に関しても臨床研修施設になれている可能性が高い。
臨床研修施設は現在新規の登録が難しく大学病院とのコネがないと申請できないが、研修医という制度ができた当時に応募すればすぐに受理された。
これも運である。
臨床で有名になっている先生達は、私のように歯科臨床に全く興味がないわけではなく、「臨床が好き」な性格を持ってうまれただけだ。
それは個人の努力ではない。たまたま歯科医師人生を歩いていたら興味があったというだけである。
さらに成功者と言われる歯科医師は本やセミナーをする事でさらに周りから神輿のように担がれ、より一層「手柄」を手に入れる事になる。
そして現代はSNSで拡散することでより一層カリスマ歯科医師というようになっていく。
私は臨床セミナーはほとんど参加しないが、題名に騙されてしまって経営セミナーはたまに参加する。その中でいわゆる「成功」しているという歯科医師が自院の取り組みなどを必死に説明しているが、「え?こんな内容で金とるの?」という事はめちゃくちゃたくさんあった。
若手歯科医師は経営セミナーの題名につられて無駄なお金を払わないようにしていただきたい。
お金を払う前にやるべき事は
・他院の求人やインスタを見て色々な取り組みを参考にする
・郊外で流行っている歯科医院の福利厚生を参考にする
・郊外でスタッフが多い歯科医院は多彩な取り組みをしている可能性が高い
では私の場合はどうか?
仮に私が「年商2億歯医者/敗者をなぜスタートさせたか?」聞かれた場合に、セミナーをしているならめちゃくちゃカッコつける。
「私は5年前に継承や開業で苦労をし人生のどん底を経験した。これまでの人生が全て否定されたと思っていた。
しかしそのどん底でも自分に何かできる事はないかを常に考え何百冊も本を読み思考する事を繰り返した。
そして自分の経験をもとに日本で悩んでいる歯科医師、歯科学生に少しでも役に立ちたいと考えサイトを立ち上げた。
匿名でやる理由は忖度ない情報を発信できると考えたからだ。」
このように言えばカッコいいストーリーができあがる。
しかし現実全くは違う笑
ストレスでどん底を味わい色々な事を考えたのは真実だが、むしろそれまでの人生が何も考えていなかっただけだった。
学生時代は全く勉強せず、進級もスレスレだったし、ずっと酒を飲んで友人と遊んでばかりいた。
国家試験や受験の時期には多少勉強をするが、それ以外は一切勉強などせず自由きままに人生を生きていた。
本を読んだのは本当だが、本を読む事は昔から嫌いではないし、漫画もたくさん読んだ。
自分の経験をもとに歯科医師や歯学部生の役に立ちたいというのは本当だが、これは自分のためなのだ。
どういう事なのかと言うと偽善ではなく人の役に立っているという感覚を味わいたいだけなのだ。
私はお金の心配はもうない。そうなると人間は”自分が社会から必要とされている”という事を実感したくなるという事が分かった。海外の金持ちが多額の寄付をする気持ちが少しわかった。
真実はこんな感じだ。
皆さんも登壇者の作られたストーリーに騙されないようにしていただきたい。
成功者にはストーリーがある方が好都合なのだ。(ちなみに集患でも開業するまでのストーリーがあると有利になる。待合室に院長の人生ストーリーを貼ってもいいだろう)
セミナーや本は購入されないと業者としては意味がない。そのためより面白くよりドラマチックにストーリーを後付けし購入されやすいようにしている。
「1日の患者数5人から100人への復活」
「田舎でも自費率50%セミナー」
このようなセミナーは多数存在するが、内容は誰にでも言えそうな事ばかりだ。特に自費率は運で良い場所で開業できた歯科医師のみに通用する。大都会で開業している友人もいるが特にカウンセリングなどしなくてもどんどん自費になるようだ。
そもそも私は「歯科での成功=人生の成功」ではないと考えている。人生の成功とは歯科、家族、趣味の掛け算で最大数値をだす事だ。
考え方の例としては人間にはMaxで9の力がある。その9をどこに割り振りするかが大切なのだが、休日にセミナーに行き、診療以外の時間で会う人も歯科関係者であれば仕事に7を割り振り家族、趣味が1なら7×1×1で最大値は7だ。
最大値がでるのは仕事3×家族3×趣味3の27なのだ。
成功者の分布
「べき乗則」というものがあり、それは上位数%が多くの資源を獲得しているという状況で、それは現代社会に当てはめると世界の上位8人が保有する資産が下位36億人が保有する資産と同額になるという現象である。

一方で個人の能力は矯正の症例難易度と同じような正規分布である。

この現象からも才能よりも運の要素が強いという事が証明できる。
歯科医師でもそうである。経営や臨床で「成功」していると言われる人がそこまで能力が高いのかと言われると甚だ疑問である。
たまたま師匠と呼べる人の歯科医院に就職した
たまたま良い土地が空いていた
たまたま歯科治療に興味があった
たまたまポストが空き学会で有名になった
たまたま興味のある分野(インプラント、インビザライン、小児気道)がのびていた
おそらくその程度だ。
私たちは成功とは個人が勝ち取るものという認識が強いが成功は自然現象のようなものだ。
自然現象とは雷、地震、台風などの事をさす。
我々が苦悩するのは成功は努力で勝ち取れると思い込んでいるからである。
巷にあふれる自己啓発本や意識高い系セミナーにも責任がある。努力さえすれば全てを手に入れる事ができるような事をうたい成功者がいかに諦めずに努力をしたかが永遠に書いてある。
その結果歯科医師は休日にセミナーに行ったり、週40時間の勤労以外で仕事をしてしまう。
その結果はどうだろうか?ほとんどの歯科医師は医院に何も取り入れる事はできずに、インスタの投稿が増えただけだ。
意識高い系セミナーとは?
人々のやる気を煽り収益をだすのが意識高い系セミナーのビジネスだと私は考えている。
意識高い系の歴史は100年以上前にさかのぼる。
1859年「自助論」が広まった。これは努力や忍耐力は何よりも大切であり、それなしでは幸せな人生は送れないという考えだ。
自助論の著者スマイルズは大衆が求めているのは「成功者がどのように努力し生き生きとした生活をしたかである」と見抜き自己啓発という市場を創り出したのだ。
自助論では「世間で成功している人は根気よく勤勉に、努力したおかげで成功した」という事がたくさん書いてある。
そして当時成功していた人も自助論を後押しした。日々の労働を根気強く継続していればいつかは成功できるというメッセージを添える事で労働者を上手くコントロールする事に成功したのだ。
これにより今の意識高い系の市場が出来上がった。
成功するかどうかは、様々な要因が絡み合った結果(家柄、生まれもった身体的特徴や知的な才能、色々な人との出会うタイミング)ではなく、努力するかどうかで決まるという考えが常識になってしまった。しかしそれは同時に失敗をした時には自分の努力不足を責めるようになってしまう。
意識高く努力する事をすべて否定するわけではないが、マイナスの側面がある。それは自分が定めた幸福や年収に達していないと自信を失い、自分の努力不足だと認識してしまうのだ。
そして居ても立っても居られない状況になり、休日に意味のないセミナーに行き、それを導入しようとして現場スタッフが混乱するという悪循環に陥ってしまうのだ。
誰から見ても成功していると思われている人に中には、自己評価と現実が乖離しており絶望してしまっている人も大勢いる。
意識高く行動していると幸福度は下がる
まとめ
今回は運についてまとめた。
世の中の大部分は運によってきまっており、それは歯科業界にも当てはまる。
セミナーに踊らされて成功とは実力や努力であると信じないようにしよう。
勤務先の院長が良く言う「居残り練習」「休日もセミナーで勉強」はただのやりがい搾取でしかない。
居残り練習を推奨し、残業代を支払わず勤務医や衛生士が勝手に上達した時に誰が得をしているのか?を考えよう。
そしてその院長が仮に成功しているのであれば、それは運を見方につけただけであり努力や実力でその地位まで登りつめたわけではないのだ。
ここまで読んでくれた方は疑問が生じるかもしれない。
「人生は運なのであればテキトーに何も考えずに、人生を歩んでいいのか?」
それは違う。
人生は運で決まるが、運の確率をあげる方法はいくつか存在する。
新規開業やリニューアルを目前に控えた歯科医師は運の確率をあげる方法が知りたいと思う。
次回はその方法をお伝えしよう。