歯学部卒業後のベストな進路とは?①

大変ありがたい事に卒業後の進路に迷っている学生からの質問がとても多いので、歯学部卒業後の進路について、2回にわたってお伝えする。

第一回の今回は「選んだ進路が将来どのように影響するか?」

第二回は「自分が理想とする歯科医師になるにはどのような進路を選べばいいか?」

今から未来へと未来から今へという二つの視点でお伝えしよう。

過去の私もそうだったが歯学部を卒業した後の進路に悩むDrはとても多い。

その理由として勧誘する側が自分の組織に勧誘したいという目的のためメリットしか言わないためだ。

「当院に勤めたらインプラントができるようになる」

「矯正は認定医が必須だ」

「分院長をやって経営を勉強してから開業した方がいい」

勧誘する側のメリットばかりを聞かされるので余計に進路に迷ってしまう。

当然メリットばかりの就職先はなく、何かを得るには何かを捨てる必要があるし、『決断』という字のごとく、決めて断つ事が必要なのだ。

今回は忖度なしで卒業後の進路のメリット、デメリットを様々な視点からお伝えしよう。

目次

医局に残るという選択

卒業後に医局に残るという選択をとる人も多いので、まずは医局に残ることについて説明しよう。医局に関しては矯正、口腔外科、その他の医局で理由が分かれると考えている。

その理由としては矯正と口腔外科は少し特殊な部分があるからだ。

・矯正科に進む

 第一に教育がしっかりとしている矯正科が多いので、治療技術は素晴らしい。もし将来矯正専門医として開業する場合は矯正科に残り、認定医をとる事をおススメする。

 矯正専門医で開業となるとそのほとんどを紹介患者に頼る事になり、そんな時に同業者からの紹介は「認定医」という肩書があると安心されるのだ。

 『矯正認定医をとって矯正と一般歯科の両方で開業すれば儲かるんじゃね?』というような安易な発想もあるが、矯正と一般歯科を両方やっている歯科医院にはあまり矯正患者を紹介をしない。

一般と矯正の両立は紹介患者が減る

 少し考えればわかる事だが、紹介すると自分の医院の一般歯科患者が取られるかもしれないためだ。

 矯正専門医は適切な場所で開業すれば売り上げが上がる場合が多いし、院長1人、衛生士が5人、助手が1人ほどいれば年商2億は十分目指せる。しかし問題なのはその売り上げを維持できている期間だ。

 そもそも矯正の認定医を取得するのに6年ほどかかるため、一般的には開業は35歳以降になる場合が多い。そして最も問題となるのは、開業後に閉院する場合である。矯正は成人で3年(保定もいれると5年)、小児では10年近くかかる。つまり閉院を決めてから何年間も新患の獲得ができないので、売り上げが処置料のみになってしまう。その期間は完全に赤字経営なのだ。

ただし矯正専門医の短期間での爆発的な収益と利益率は保険医には到底真似できない。

矯正専門医は年収は高いが、継続が難しい

 結婚後に矯正医として非常勤で働く場合認定医はとても有効だ。隙間時間でかなりの高額の給料がでる

 医局に残るデメリットとしては、一生医局のために働かないといけないとい事だ。これもどこの大学病院の医局かにもよるが、今まで育てたお礼として開業後も大学授業などに参加させられる場合がある。

 もう一つのデメリットはマウスピース矯正などを学べないという事だ。特にインビザラインは日本の薬事法の許可が下りていないので、大学で教える事はできない。最新の医療は大学では学べない事が多いのだ。

 将来矯正と一般の両立を目指す歯科医師も多いが、時間的な拘束がとても長いのでその場合は医局には行かないほうがいい。矯正専門医に勤務するか、一般歯科で矯正をやっている歯科医院に勤務するのがいいだろう。

 

メリット:認定医が取れる。矯正医としてのレベルが上がる 大学とのコネクションができる

     非常勤の給料がいい

デメリット:医局によっては20代の青春時代を歯並べに費やしてしまうので、婚期が遅れる大学もある 

     卒業後も医局への奉仕の文化がある

・口腔外科

私自身6年時には開業後に全身の事を分かっていたほうが有利だと思い、口腔外科で研修をしようと考えていたが、開業した今はあまり必要ないと感じている(もちろん知っている事は素晴らしい事だが)。

口腔外科に行く事のメリットは抜歯ができるようになる事と、メスやナートという手技がとても上手くなる事そして医科の知り合いが増える事である。

当院にも外科出身の先生が勤務しているが抜歯や外科処置はとても上手いし、メスやナートなどの基本的な処理が素早くとてもきれいだ。

また抜歯のバイトを募集している歯科医院もあるので、非常勤としての需要はある。

開業後の抜歯はというと難しい症例は紹介状を書いて120点を算定する人も多いように感じる。アポを30分や60分かけて抜歯をしてももらえる点数が限られているためだ。

医局に残り将来病院の部長までいける人物は一握りだし、激務にたえ部長までいったとして年収は1500万程度だろう。

またインプラントなどは一般開業医の方が症例は多いので、学びたい場合は外科でなくインプラント症例が多い開業医の方がいいだろう

ただどんなに忙しくても「口腔外科」という仕事にプライドとやりがいを持っている人も多く、大型病院での勤務は一度経験してみたいとも思う。

メリット:外科処置がかなり上達する 大学とコネクションができる 医師の知り合いが増える

     (医者と結婚する歯科医も多い) 非常勤としての需要がある

デメリット:開業後のメリットが矯正よりも少ない(難症例は紹介した方がコスパいい)

・その他の医局

 自分が好きな事があればその医局に残り、専門医を取る事も楽しいと思う。いきなり開業医に勤務すると良くも悪くも世界が狭くなるし、勤務先の院長から多くの影響をうける事になる。

お金にゆとりがありすぐに働く必要がない場合は医局に残り、ゆっくり人生について考える事もいいだろう。

学生や医局員とのつながりは開業後も重要になるし、大学とコネクションがあると有利に働く場合が多い。

大学との繋がりは開業医にとって、有利に働く場合も多い

学会や勉強会で有名な先生になりたいのであれば、その分野で専門医をとる事をおススメする。

専門医があれば勉強会などでも色々な場所から声がかかるし、開業後も医局との繋がりがあれば代診Drを獲得しすく、専門医などの資格をとっていると求人も少し有利になる。しかし今は歯科医師不足が急激に進行しており、歯科大学のない県では専門医+αが必要になるだろう。

デメリットとして給料は開業医に劣る。最近は新卒Drでも月50万以上だす開業医も増えており、医局ではそれなりの給料がもらえるまでに何年もかかる。

メリット:認定医がとれる 大学とのコネクションができる 自分の時間が確保できる

デメリット:給料が安い 患者数をこなす事はできない

開業医に行く選択

おそらくほとんどの歯科医がこの進路を選ぶはずだ。

そしてよく耳にするフレーズとして

「初めに勤務する医院が重要」

「勤務先で今後の人生が決まる」

私も研修医の時にこのようなお決まりのフレーズをたくさん聞いたが、同世代のほとんどが開業医になった今言える事は、どんな職場に行こうが変わらない。

勤務医時代に保険に時間をかけていた友人が、開業して借金をしたら1日30人こなすようになったし、自費ばかりやって保険を馬鹿にしていた友人が開業後に「保険が楽」と言い出したりする。

逆に歯科に全く興味のない友人が勉強にはまったりもある。

はっきり言って勤務先で人生が決まる事なんてない。勤務先でその後の人生が決まるとか言っている人は、たぶん親か何かを人質にとられているんじゃないかと思う。

勤務先で人生が決まると言っている人は、親を人質に取られている

不安もあると思うが、そのくらいのテンションで読み進めてもらいたい。

・都会の開業医

インプラントやインビザラインの症例をたくさんこなしたい場合は、都会の開業医をおススメする。田舎と都会ではインプラント、インビザラインの症例数は圧倒的に差があるためだ。

田舎でも自費はあるという先生もいるが(どのくらい田舎かにもよる)、自費の数は都会の方が圧倒的に多い。

いくら田舎の歯医者が「うちの医院でインプラントを経験できる」と言っても都会の症例数には当然かなわない。

インビザラインを学びたい場合は矯正専門医でもいいが、意外と都会の一般開業医の方がインビザラインをやっているケースも多い。矯正専門医で学術的なインビザラインを学ぶ事もいいが、一般開業医でクレームにならずにインビザラインをやるという方法を見る事もいいし、むしろそっちの方が開業してから役立つ可能性もある。

若手歯科医は学術的な事をしっかりと学びたがる傾向になるが、実際の現場は学術とは離れている事のほうが多いし、自分が開業したとしても学術と離れた臨床をするだろう。

真面目になりすぎてくれぐれも自分の力を過信しないようにしていただきたい。

将来都会で開業し、自費思考が強いなら都会の開業医で自費を勉強するといいだろうが、注意が必要なのは自分が自費に向いているかどうかの判断だ私も若いころは派手な症例に憧れたが、今となってはメンテがベストだと感じるようになった。

メリット:自費の治療をこなせるようになる 派手な生活をおくれる場合が多い

デメリット:メンテ経営は学べない 自費治療に向いている人とそうでない人がいる 

      都会で家庭を持つとコストがかかる

・勉強会で有名な開業医

おそらくほとんどの若手歯科医師が一度は憧れる職場だと思う。勉強会で有名になりたいのならこの道がベストだと思う。

メリットは歯科界で有名になるには最適な選択あるという事と、有名な先生同士のつながりができるし、色々な勉強会に行き人脈を広げやすい。

さらに色々な症例を経験でき、最新の論文や治療法を習得できる。

そして自分自身が一度有名になると、開業してから歯科医師や歯科衛生士の求人には困らなくなる。安い給料でもいいから働きたいという若手がどんどん応募してくるからだ。

デメリットとしてはほぼ毎日診療後には論文を読んだり練習をしたりそして休日は勉強会や院長の手伝いに時間を費やすことになる。

その結果有名になれる可能性はあるが、それは一握りだし、福利厚生が整っていない事が多い(有名なので福利厚生など整えなくても求人が来るからだ)

逆に言えば、自分が有名になり開業したあとに、福利厚生を整えれば「求人」で困る可能性は限りなく低くなる。

最初は安い給料でもまわりより歯科について勉強しているという自負があるし、「有名な◎◎歯科の勤務医」というと”凄い”という評価が得られる。しかし同期がどんどん給料があがっていくと「俺だけ給料が安い」という気持ちが芽生えてくる。

そして勤務する場合に確認しておくべきなのは「どんな治療をやらせてもらえるか?」だ。

職人気質な先生が多く、自分の症例をたとえ勤務医といえども触らせてくれない院長もいると聞く。私の友人も何人もこのような職場に就職したが、やらせてくれる職場とそうでない職場ははっきりと分かれている。

メリット:治療技術が向上 満遍なく多くの知識が身に付く 有名な先生達と知り合える

デメリット:福利厚生が整っていない場合も多い(最近は改善してきた)

      拘束時間がとても長い 

・田舎の治療型の開業医

昔ながらの歯科医院で、おそらく長年やっており患者は地元の顔なじみの人が多く、スタッフも何年も勤務している場合が多い。

治療に関しては、全く有名じゃないのにかなりこだわった治療をしている院長もいたり、治療に興味のない私が見てもヤバい治療をしている院長もいたりとふり幅が広い。

継承時はこのような医院を馬鹿にしていたが、ある意味かなり安定している歯科医院だ。

歯科医師が不足している今では、このような経営の歯科医院でも十分収益は見込まれる。

メリットはスタッフや患者がほぼ固定しているので、入社や退社が少なくクレームや人間関係が安定している場合が多い。また家族経営していて、信頼をつかめば院長の奥さんやスタッフが暖かく迎え入れてくれることもある。

メリットがそのままデメリットにもなりえるが、スタッフや治療がすでに固定しているので、新しい事を学べる環境ではない。

メリット:モチベーションアップなどの無駄な事はやっていない 数をこなす技術が身に付く

デメリット:福利厚生が昔のままの事がある(それでもやっていける事は逆に凄い)

      治療技術が劣る 

・田舎の予防型の開業医

このブログでは何度も伝えているが、最もストレスの少ない経営はこのスタイルだろう。

メリットとしては歯科衛生士が数多く在籍しており、おそらく福利厚生が整っている場合が多い。そもそも福利厚生を整えないと田舎に求人は来ないからだ。いろいろな求人を見てみるととんでもない発想の福利厚生があって面白い。

デメリットは院長がいくらインプラント、インビザラインを勉強できると言っていても都会に比べると症例は間違いなく少ない。田舎で自費率が高いと言っている先生もいるが、都会に比べれば圧倒的にすくなく保険診療とメンテナンスがメインである。

自費は補綴も一定数はあるが、ほとんどが矯正であり成人矯正やインビザラインは少なく、多くは小児矯正だろう。

稀に謎のモチベーションアップ系歯科医院がいるので、嫌いな人は注意した方がいい。

メリット:メンテの経営を学べる 福利厚生が整っている場合が多い 働きやすい

デメリット:自費は少ない 治療技術が劣る 謎のモチベーションアップ系の場合がある

進路を決めるモチベーション

開業医に行く場合は自分がどうしたいのか?を明確にしてから選ぶといい。

診療がゆったりしている、院長が優しい、好きな治療ができる、給料がいい、福利厚生がいい

そんなすべてを備えた歯医者はないからだ。

「石の上にも三年」とはとても良い言葉だと思う。

どんな状況でも3年頑張れば慣れてきて好転するということわざだが、私が共感する部分は全く違う。

3年経つと慣れてきて「飽きる」のだ。

25歳で研修医が終わりやる気に満ちて週末は勉強会に参加していたが、28歳で飽きてきた。

そして29歳で実家の医院を継承して経営にやる気になり32歳で年商2億まできた時に飽きてきた。その後この年商2億歯医者/敗者というサイトを立ち上げ、忖度ない歯科の真実を広めるために活動している。

私の周りで開業した同期も3年ほどで飽きてきている。それは3年もたつと同じことの繰り返いしだという事に気が付くからだ。求人をして患者を増やす、チェアーが足りなくなったら増築し、求人をする。その繰り返しだ。

しかし「飽きる」という事は決して悪くはないと思う。なぜならば次のステージにすすむことができるからだ。

進路で悩んでいる若手Drも「どうせ3年経つと飽きる」という緩い考えがいいだろう。

私は30代中盤だが、同期で20代のモチベーションで勉強をしている歯科医師はほとんどいない。進路で悩みガムシャラに歯科治療を勉強しても、10年後はほとんど変わらない。

年収でいえば2000万~4000万くらいで落ち着く。どうせほとんどの歯科医師がそのようになるのであれば、20代の若い時はその時しかできない事をやっておくと良いだろう。

・院長からの勉強会参加の誘いを断り、全国や海外を旅行する

・次の日の仕事なんか考えずに朝まで遊ぶ

・歯科以外の人とのつながりをもつ

・歯の事なんか考えずに趣味に没頭する

これらは結婚して子供ができたらできない事で、勉強会や学会は結婚して子供ができても参加できる。

友達との飲み会は結婚や子供ができたら制限されるが、仕事の飲み会は制限されにくい。

歯科医療を勉強する事も大切だが、結婚、子育て、趣味、プライベートを優先して残った時間で勉強すればいい。

死ぬ瞬間に後悔することトップ5は?

「自分に正直な人生を生きればよかった」

「働きすぎなければよかった」

「思い切って自分の気持ちを伝えればよかった」

「友人と連絡を取り続ければよかった」

「幸せをあきらめなければよかった」

明日死ぬかもしれないのに根治の勉強する歯科医師はいないだろう

「まあこんなもんか」くらいの気持ちで進路を選ぶ事をおススメする。

次回は自分がなりたい将来像から進むべき進路をお伝えしよう。

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