今回はメンテナンス患者の増やし方をお伝えする
まず当院はメンテチェアー7台で1日約60~80人のメンテ患者が来院している。
衛生士は常勤、非常勤合わせて合計14人在籍しており、メンテナンスのみの年間売り上げは1億6000万ほどとなっている。
保険のメンテアポは30~60分に設定しており、衛生士には空きがあるためもっと患者数を増やそうと思えば増やす事はできる。
ただ私は”数字”は何も意味をなさないと考えており、同業者からの承認欲求を満たすためのツールだと思っているので、これ以上無理にメンテ患者を増やそうとは思わない。
最近の意識高い系の歯科医師とは感覚が全く異なるが、私はスタッフも7割くらの力で経営していけるような組織が最も良い組織だと考えている。
常に意識高く院長もスタッフも120%で行動している組織は長続きしない。
当院はスタッフの急な休みに対応できるように1~2人ほど衛生士を余分に配置しているが、暇な事が嫌なスタッフもいるらしいので増設を計画しなければならなくなってしまった。
【今後の増築に伴う計画】
・チェアー10台→12台へ
・スタッフルーム増築(約25畳)
・最終アポの短縮(平日最終アポ17時30、土曜最終アポ16時30)
・シフトの変更(歯科医師、歯科衛生士は平日18時、土曜17時に退勤可へ)
私が規模拡大をそこまで望んでいなくても状況は変化していく。
これが経営の難しいところだとも実感している。
良くも悪くもメンテナンス型経営は軌道にのると拡大していってしまうという事実がある。
大きな勘違い
メンテナンス患者を増やそうとした時に、真面目な歯科医師や歯科衛生士ほど大きな勘違いをしてるように感じる。
それは「メンテナンス=歯周病治療」
という事に意識が向きすぎて熱くなってしまう事だ。
当院のメンテナンスの意識は全く違う。
「メンテナンス=快適なもの」
これが当院のメンテナンスに対する意識である。
当院ではいきなり縁下歯石をとることも、いきなり歯周外科をやることもない。
メンテナンス患者には顔なじみの担当歯科衛生と会話をし、リラックスしながら口の中がスッキリしてもらうという事が第一だと考えているためだ。
極論ではあるがメンテナンスで歯周病が治る治らないは結果でしかないと考えている。
歯科医療従事者と同じくらいメンテナンスの重要性を理解している患者はいないし、もしそんな患者がいたのなら多分めんどくさい患者だから私はあまり治療はしたくない。
特にたくさんのセミナーを受講している歯科医師や歯科衛生士が『メンテナンス=歯周病治療』というような思考の罠に陥りやすい。
それは様々なセミナーで「メンテナンスで重度歯周病患者を治療した」という事を伝えられており、自分もそのような患者を救うんだ!という意識が強するのだ。
セミナーの症例など日々の臨床を切り取ったうちのほんの1ページでしかない。
ブラッシング指導からはじまり歯周外科や矯正まで駆使して素晴らしい口腔内へ治療する。もちろんそれもいいのだが、すべての患者にそこまでの労力を費やす事はできないし、特に田舎はそもそもそこまでを希望している患者などほとんどいない。
「そんなことはない!私は患者のために全力を注ぐ!」という若手もいると思うが、30歳になる頃にはそんな事を言っていた過去を恥じるだろう。
「経営としてのメンテナンス」と「臨床としてのメンテナンス」を分けて考える事がとても大切だ。
メンテナンスと恋愛
メンテナンスは恋愛と似ている。
・共感
・肯定
・問題解決を急がない
女性を口説くときにゴリゴリに好きという表現をすると女性は身構えてしまう。
男性も経験があると思うが、女性から積極的にこられると引いてしまうだろう。
あの感覚が大切だ。
好きという意識は伝えつつ、適切な距離を保ち、相手の気持ちを探る。
そして相手の話に共感し、相手の土俵でトークを繰り広げる。
ここで重要なのは自分の事ばかりを話さない事だ。
相手に話のボールを常に持たせて、相手が7割こちらが3割くらい話す意識でトークをすると女性は話を聞いてもらえたという意識になり、恋愛が成功する可能性が高まる。
女性にモテない男の多くが自分の事ばかりを話しているが、自分がどんなに凄いかなどの自慢は女性にとってはどうでもいいのだ。
メンテに誘導するときも歯科医師や歯科衛生士がいきなり歯周病の大切さを熱烈にアピールしても患者は引いてしまう。
まずは「口の中がスッキリした」「リラックスできる」という感情を大切にし、患者の口腔内で何かトラブルがあった時に「それは歯周病が原因」という事を伝える。
歯科医師の目から見てメンテナンスが必要な患者が、自分から進んでメンテナンスをやるとは考えないほうがいい。
まずは主訴を改善しその後少しずつ口腔内に関心を向けるようにしていく。
この段階重要な事は歯の掃除やメンテに興味のない患者はすぐにリリースしていい。
セミナーでは「歯科医院ファン患者をつくろう」という単純な事を言っている場合が多く、多くの歯科医師はあの手この手で患者を引き留めようとする。
カウンセリングをしたり、顕微鏡で細菌を見せたりなどだ。
これも恋愛に例えると、こちらに全く興味のない女性に対していくらアプローチをしても時間の無駄だ。彼女がほしいのであれば、こちらに興味のある女性にアプローチした方が成功の可能性は高くなる。
さらに今後は歯科医院が不足していく。
特に郊外はそれが顕著になる。つまり自分の歯科医院に合った患者のみを獲得すればいいのだ。
口腔内が崩壊している患者を救う事は素晴らしいが、口腔内が崩壊している患者ほど口腔内に無関心だ。
長年歯が1本しかない患者はその状態で食べる事ができるから義歯など必要ないのだ。
メンテナンスで経営を成り立たせたければ、メンテナンスに興味のある患者を優先し、興味のない患者は一秒でも早くリリースできストレスの少ない経営ができる。
メンテに使える心理テクニック
メンテナンス経営にも応用できる心理テクニックは多く存在する。
・返報性の法則
人から何かを与えられた時に、相手にもそれに見合うお返しをしなければならないと感じる心理効果
当院の考えは医療とはサービス業である。なので受付などの患者対応はしっかりとするように意識している。
そして初診では歯ブラシをプレゼントし、誕生日月には誕生日プレゼントを渡している。
・ウィンザー効果
当事者よりも第三者から発信された情報の方が信頼されやすい心理効果
当院は現在メンテナンスを積極的にしている歯科医院という認識が地域に根付いている。私の開業地は地元なので小中学校の知り合いからそのような事をよく言われるので発覚した。
そのため当院は広告にお金をほとんどかけていない。
・希少性バイアス
入手困難な状況におかれた事柄に対して実際以上の価値を感じてしまう心理効果
当院はメンテナンス予約が取りづらい。特に土曜は半年近く先になってしまう。そのためより一層人気歯科医院という認識が患者に根付いている
・単純接触効果
繰り返し接触する事で好意を持つようになる心理効果
一度メンテに通いだしたらその歯科医院に継続しやすくなるし、担当衛生士制を導入する事でお互いに好意を持ちやすくなる。
担当制にするとアポにムラはできるが、衛生士と患者の両方の満足度上昇のため当院では担当制を導入している。
・メラビアンの法則
コミュニケーションにおいて視覚情報が最も伝わりやすいという心理効果
当院は待合室を挟んで治療スペースとメンテスペースが分かれており、特にメンテスペースは落ち着いた色に統一し完全個室になっている。患者が特別感を得られるような設計にしている。
・バーナム効果
誰にでもあてはまる事を自分だけにあてはまると勘違いしてしまう心理効果
当院では初診時に色々な資料を渡しているが、その中には「口臭が気になるあなたへ」「歯を失いたくないあなたへ」などと書かれた資料が何枚もある。
・ホイラーの法則
「ステーキを売るな!シズルを売れ!」シズルとは肉を焼くときに出るジュージューという音。人はいかに素晴らしいブランド牛を説明されるよりも、目の前でジュージューと焼かれたほうがステーキを欲しくなる。
当院では待合室にアロマを導入している。月1万で1か月に1度色々なアロマに変える事ができ、本来来たくないであろう歯科医院を、少しでも来たいと思ってもらえるように工夫している。
様々な工夫をして歯周病治療という言葉を抜きにメンテナンスに来たいと思わせる事が大切だ。
具体的な方法
大前提としてスタッフと患者が集まる歯科医院である事が大切である。
以前ブログでもお伝えしたが、
「院長が怒らない」
「福利厚生が整っている」
院長はまずこれらを意識する。
開業していない若手歯科医師はこんな事簡単だと思うかもしれないが、これが意外と難しいのだ。
自分が何億もの借金を背負うと目の前のスタッフの行動にイライラしてしまう。
最近の統計にも出ているが2040年ほどまでは人口減少よりも歯科医師、歯科医院の減少スピードが速い。
今度は患者よりもスタッフを優先しなくてはならない時代がくるだろう。
ではメンテナンス患者を増やす具体的な方法とはどのような事があげられるのか?を紹介する。
・ターゲットとなる患者層
子どもや高齢者が定期的なメンテナンス通院には適している。
子どもは矯正を行うことでしっかりと通ってもらい、高齢者は馴染みの担当衛生士と定期的に会話をするために通ってもらう。
高齢者はしっかりとメンテナンスに通う印象がある。さらに午前や午後などアポが埋まりにくい時間にも来てくれるので高齢者が通いやすい歯科医院はメンテナンス患者が増える。
最近は「こども歯科」と医院名につけて小児をターゲットにする歯科医院が多いが、メンテナンス経営は高齢者との相性がいい。
・受付
受付スタッフの対応はとても大切だ。テキパキと仕事ができる事も大切だが、愛嬌も重要なのでコミュニケーション能力のあるスタッフを受付に配置しよう。
・メンテナンス専用エリア
治療エリアとメンテナンスエリアは分けるといい。
世の中のビジネスの根本は「安心感」である。そのためチェーン店が利益を出す事ができる。
「コンビニに行けばある一定の条件以上の物が手に入る」
「ガストに行けばある程度の食事ができる」
歯科医院でもメンテナンス専用エリアを設ける事でメンテナンスをある程度しっかりとやっているという安心感を患者に与える事ができる。
ここで大切な事は「ある程度」でいいという事だ。
100人中1人しかいないような難しい患者のメンテナンスをする必要などない。
特別な技術などなくてもいいから100人中60人が納得できるという事が大切だ。
・雰囲気を変える
治療エリアとメンテナンスエリアでは色や設計などハード面の大きく分ける事が有効だ。
当院はメンテナンスエリアは落ち着いた色(茶色や黒)で配色された完全個室で、治療は明るい色(白)で配色された半個室にしている。
・音楽
メンテエリアは落ち着いたリラックスできる音楽を流しており、治療エリアはハイテンポな音楽を流している。
・アロマ
待合室にはアロマを導入している。アロマのサブスクを月1万で契約しており、月1回別の香りにも変更できる。
より区別をしたいのであれば、メンテナンスエリアと治療エリアで匂いを分けるのもいい方法だと思う。
・植栽
管理がめんどくさくコストがかかるという理由で当院は数本しか植栽はないが、植栽が好きな院長は導入してもいいだろう。植栽にはリラックス効果があり患者からは喜ばれるはずだ。
・患者向けセミナー
院内でも近くの公民館などでもいいので、患者セミナーを開催するといい。特に高齢者は比較的集まるためそのような患者層をメンテナンス患者につなげやすい
院内設計で大切なのは特別感である。その医院が最も大切にしたいと思う患者に対して特別感を与えられる設計にする事がベストである。
私にとってあなたは特別ですという雰囲気をだす事が恋愛でもメンテナンスでも大切なのだ。
ほとんどの男性が女性を口説くときにきれいでおしゃれなレストランに誘うと思う。バタバタしていて落ち着かない大衆焼肉屋にいきなり誘うという賭けにでる男性は少ないはずだ。
バタバタしている治療の隣で、リラックスしてメンテナンスなど受けれるはずがない。
もちろん歯周外科や再生療法を駆使して患者満足度をあげ、患者教育をしっかりし、メンテ患者を増やしていくという方法もある。
そのような医療を第一に考えた行動は歯科医師から尊敬の眼差しで見られるが、それには莫大な時間と膨大な知識が必要になる。
最近は建築費高騰で借金が2億になるケースも出てきており、多額の借金を背負った院長がそんな事をしている暇などない。
人生は歯科医師だけではないのだ。
結婚、子育て、家、車、介護などお金がなくては何もできない。
まとめ
今回は「メンテナンス患者の増やし方」について説明した。
極力人に頼らない居心地の良い歯科医院を作り、メンテナンスに興味のない患者はすぐにリリースし、口の中をスッキリしたい患者のみを獲得していく。
これがメンテナンス経営への近道だ。
勤務医はメンテナンス経営の凄さを理解していない場合が多い。
都会で自費をやる事に憧れる傾向が強いし、かつての私もそうであった。
しかし自費メインの開業には向き不向きがある。
自費が全てトラブルに繋がるというわけではないが、診療メニューが多いとスタッフ管理やオペレーション時にトラブルが起きやすくなり定着が悪くなるし、退職したあとの教育にコストがかかりすぎる。
診療メニューはできるだけシンプルがいいのだ。
まして今後20年ほどは歯科医師が減少する事で、歯科医院側が患者を選ぶ時代になる(田舎はすでになっているが)
都会で開業し高額な広告費や家賃をかけて売り上げをあげるのではなく、再現性の高いメンテナンスを主軸にした定期管理型の歯科医院をつくる事は、院長にとっても勤務スタッフにとってもベストな経営である。
そもそも国が定期管理型の歯科医院を推し進めている間は、国の方針に従うことが賢明である。
ここで若手歯科医師に伝えたいことは
「開業するとほとんどの院長が定期管理型の経営を目指す」という事である。
勤務医時代に「自費が一番」と言っていた知り合いも開業後にはメンテナンス主体の歯科医院経営について私に質問してくるようになった。
多くの歯科医師が勘違いしているが、メンテナンス主体の歯科医院を構築するのに臨床的な知識や技術は全く必要ない。
メンテナンス主体の歯科医院を構築しプライベート重視の歯科医院経営を目指そう。
次回は「歯科医師免許取得後の心理変化」について説明する
