歯科医師としてのお金の使い方は人それぞれだ。
年収も違えば、考え方、趣味も違う。
友人や知り合いの先生たちと話をしていても、お金の使い方は様々である。
自分で稼いだ金は自分で使うというポリシーで豪邸を建て、高級車に乗っている先生もいれば、子供にお金を少しでも多く残す事が正義だと考えている先生もいる。
今回のテーマはかなり賛否両論あるかと思うが、私が考える適切なお金の使い方を医院と個人に分けて説明しよう。
あくまで田舎のメンテ主体の開業医という目線であり、都会や多店舗経営している場合とは目線が違う事をご理解いただきたい。
医院のお金の使い方
医療機器、広告、人件費それらにすべてお金をかけて派手に開業し何億も売り上げをあげている先生もいるが、凡人には真似できないと覚えておいた方がいい。
凡人が経営で少しでも有利になるには、可能な限り支出を抑え必要なところに投資するという考えが大切であるし、それは”値切る”という行為につながる。
ビジネスの基本はいかに安く仕入れ、高く売るかである。
モノは業者に嫌な顔をされるぐらい値切って、全力でスタッフに還元する
①広告
看板は一般の歯科医院にはほとんど必要ない。
看板で有名なきぬた歯科のきぬた先生は看板投資に年間2億かけているらしい。
どうせやるならきぬた歯科くらい有名になるまでやるべきだが、きぬた先生は天才なので真似はできないだろう。
当院もリニューアル時に看板の話がかなりたくさん来たがすべてを断った。今当院の看板は医院の前にある1つのみである。
開業時に看板なしでは不安な場合は何個か出すのもいいが、看板を出すなら自分の顔を出すくらいのインパクトがなければ意味はないだろう。
②HP
誰もがわかっているとおりHPは必須である。しかし気を付けるのはその金額だ。
開業時いろいろと無駄に意気込んでしまっていた私は100万かけてHPをつくったが、今考えるとそこまでの金額を出す必要はなかった。
ランサーズなどで数十万かければ綺麗なHPをつくってくれる。
最も大切な事はしっかりとSEO対策をして「地域 歯医者名」で検索順位1位を目指すことだ。当院はSEO対策業者などいれずに検索順位は1位か2位を維持できている。
そしてそのSEO対策に関してもお金をかけず自分でできる事は意外とたくさんある。
HPで大切な事をまとめると
・レスポンシブデザイン
・デザインの色はかなり濃い色にする(スマホで見て淡い色だとユーザーが離脱する)
・トップページに院長の経歴をのせる(権威性があがりSEOに有利に働く)
・リンクをはる(必ず関連のあるものにする)
・HP上の文字に動きをつける(視認性が高まる)
・動画をはる(できればサイトに実装がいい)
・毎月のブログの更新(最低2000字以上)
・ブログにはキーワードを散りばめる
・ブログはタイトル、キーワード、メタディスクリプションも記入する
・HPのいたるところに地域名をいれる(〇〇県〇〇市の〇〇歯科など)
・大切な事は必ずテキストでいれる
・MEOも常に最新の情報に更新する
これらはお金をかけなくても自分で十分できる
見た目の良いデザインを優先しすぎてHP業者の言いなりになり、高額な費用をはらわないようにしよう。
そもそもSEOの知識が乏しい業者も多いので「SEO対策をしている」という言葉には騙されないようにしたほうがいい。ある程度の理論武装をして、具体的にどのような対策をしているのか聞いて判断するほうがいいだろう。
理論武装してHP業者の能力を見抜こう
③医療機器
医療機器投資は歯科医師で大きく考えが異なるだろう。
あくまで田舎・保険メインで開業する場合の話をしよう。(都会で開業していても高額な機器投資を回収できているDrは多くはないと思うが)
私の場合、高額な医療機器を購入するときはかなり吟味する。治療に興味がないという事も理由かもしれないが、新しい機器に飛びつくことはほとんどない。
今の判断基準としては人に頼らないシステムをつくれるかどうかだ。
・CT
CTはアールエフやCiで十分だ。シロナやカボのCTは見た目もいいが、金額が高すぎる。
シロナは最近流行りの“気道”をしっかり見る事ができるが、いくら気道が見えてもそれが利益を生み出さなければ何の意味のない。
当院はCiのCTをセファロつきで800万で購入した。シロナのCTは1500万程度なので、その差は約700万だ。
ではその差はどのくらいで解消できるのか?
・CT撮影の場合
11700÷3(利益率30%として)=3000(撮影1回の利益)
7000000÷3000÷=2333
経費など細かい事を省くと、シロナのCTは2300回以上撮影しないと
Ciとの差額を埋める事ができない
・気道を説明して矯正をする場合
500000(小児矯正の費用と処置料)÷3(利益率30%)=166666
7000000÷166666=42
小児矯正で気道に問題のある患者を42人以上見ない差額を埋める事ができない
これらを考えどんなCTが最適か決めるといいだろう。
高度な機器には高度なコンサル能力も必要になるし、それを医院として何年も維持していくのは想像以上に労力がかかる。
やり始めた新しい事が全然定着しなかったという経験をした院長も多いはずだ。
マイクロスコープ
保険点数に導入されてはいるが、まったく採算が合わない。
もちろん自費の根治をする場合は必須だと思うが、田舎で自費の根治をするくらいなら、メンテを回したほうがよっぽど効率がいい。
某勉強会で有名な先生の医院に非常勤で勤務していた時も、「マイクロスコープはほとんど飾り」と言っていた。
当院の代診が開業する時にマイクロスコープを買うか迷っており、「医院が軌道にのってからがいい」と全力でとめた。その運転資金があるならスタッフボーナスを最初の半年から出してあげたほうがいいだろう
開業時はよほどの覚悟がないと購入してはいけない。
偉そうな事を言っている私もマイクロスコープは購入してもいいかと考えている。税金を払うくらいなら設備投資をしたほうがいいし、そもそもただ治療をしているだけという事に飽きているので、暇つぶし感覚で購入は検討している。
光学スキャナー
2024年の保険改定で保険導入された事で購入した。もちろん最も安いMeditである。
購入した目的は、人で不足対策だ。石膏を流すなどというアナログな行為をなくしていきたいので、今後加速してすすんでいくであろうDX化に少しでも早くスタッフがなれるために購入した。当然採算はあっていない。
自動精算機
今回助成金を使い400万ほどで導入した。これも少しでも“人”に頼らないシステム作りのためだ。
当院は1日80~120人患者が来院し、受付は2人体制である(アポはチェアーサイドでとる)。自動精算機を導入する事で、受付を1.5人くらいにすることができる。
どの自動精算機を購入するかは受付チーフにまかせた。
私からの指示は「お金はかかってもいいから最高に便利なものを選んでほしい」だ。
労働者人口が急速に進む日本で、少しでも人を減らせる機器にはお金を惜しんではいけない。
サブカルテの電子化
2025年の導入を目指している。
リニューアル時に導入するか悩んだが、当時はあまりいいものがなかったのと、父親の反対で導入できなかった。
今後開業する予定の先生は必ず導入したほうがいいだろう。
医療機器投資の考えは様々でスタッフ教育やDr獲得に有利に働く場合もある。しかし業者がいうほど求人は来ないし、患者もこないという事実は認識しておいたほうがいい。
それでも資金が残ったら
私は法人に残った資金を保険やオペレーティングリースにいれている。
これらのメリットは税金の先送りだ。
数年前の法律の改正ですべて経費にはできなくなったが、それでも半額くらいは経費にできる。
経営をしていると必ず良い時期と悪い時期が必ず訪れるものだ。
スタッフが一気に何人も辞めたり、院長が病気やケガをしたり、たったそれだけの事でほとんどの歯科医院は経営困難になってしまう。
「勝って兜の緒を締めよ」とはよく言ったもので、経営状態がいい時こそ調子に乗らずに気を引き締めた方がいいだろう。
イケイケの時には自分には何でもできうると勘違いしてしまうが(昔の私もそうだったが)、たかだか歯科医院の売り上げを数億にしたくらいで勘違いしてはいけない
歯科医院で飲食に手を出している院長もいるが、利益をだす事は難しいだろう。(趣味や他人からの承認欲求を得るためならいい)
自分の専門を超えたところで勝負しても勝てるわけがない。
私は残った資金は節税をして、いずれくる経営のピンチに備える。
個人のお金の使い方
個人のお金の使い方に細かい事をいうつもりはないが、私の考えを伝えよう。
“お金は道具”であり、お金をどう使うかで人からの見え方をコントロールできる。そしてその見え方を使い自己プロデュースをする事も容易だ。
・歯科医師から金持ちと思われる場合
この場合のメリットは大きい。
学会やセミナーに高級時計を身に着け外車で参加すると目立つため、そういう事に憧れる若手歯科医師の求人には役に立つ。
若手から憧れられる存在として認知度をあげる事は歯科医院経営に有利に働く。セミナーや学会で有名になれない歯科医師はこちらの方法を使えば誰でも認知度をあげる事ができる。
特に学生に関してはロレックスやポルシェを乗るぐらいで簡単に金持ちという印象を与える事ができる。逆に学生に言える事だが、ロレックスやポルシェくらいで成功していると思わない方がいいだろう。
・一般人から金持ちと思われる場合
この場合はデメリットの方が多く、その理由は簡単で“妬み”である。
親が田舎で開業している子息は共感してもらえると思うが、相談したり人生について話したりする時に「金があるから大丈夫」などと言われて深い話ができない場合もある。
田舎の場合は歯科医院の近くに豪邸を建て高級車に乗っていると地元の人達との親交はあまり深められない。
高級なものを身に着ける場合は状況に合わせて変化させるのがいいだろう。
Drの求人目的なら高級なものをあえて身に着け、地元での集患目的ならユニクロなどを身に着ける。
求人目的以外でハイブランドの服を買う人の心理を私は理解できないのだが、周りからの承認欲求やマウントを意識しすぎているのかもしれない。
お金と時間
歯科医院に限らず“医療”というビジネスモデルは典型的な労働集約型ビジネスである。労働集約型ビジネスとは人に依存する業態をさす。
その対義語として資本集約型ビジネスがあり、それは生産設備などの資本が事業の中心のビジネスで不動産業、金融業をさす。
開業したばかりであれば、時間など気にせずガムシャラに走る時期も大切だが、売り上げや医院の事にすべての時間をあてる時期を何年か経験すると、ふと色々なものを失っていたと気が付く時がくる。
そんな時はその失ったものにしっかりと目を向ける意識も必要だ。
お金や承認欲求のために失った可能性のある物
結婚?
家族の時間?
健康?
趣味?
友人?
プライベート?
読んでいる先生は「私は上手くやっている」と反論する先生もいるかもしれないが、当時の私もそう思っていた。
難しいのはガムシャラに走っている時期というのは、周りが見えない時期なのだ。
一度家族や友人に聞いてみるといい。自分が知らない間に変わった事に気が付くだろう。
労働集約型ビジネスの歯科医院において、院長が働けば売り上げはある程度まではあがる。
治療のアポを限界までいれて、診療後はスタッフの練習に付き合い、休日は勉強会にいき医院の自費率をあげる事に全力を注ぐ。
しかし、そういう生活は院長の意思でいずれ終わらせなければならない。
では具体的に何を意識すればいいのか?それは「時給」と「時間を作る」ことだ
・時給を意識する
年収や患者数は意識する院長が多いが、時給を考える院長はとても少ない。
時給を出す計算はとても簡単だ。
年収÷仕事時間=時給
ちなみに仕事時間に含まれる事は?
診療時間、セミナー、スタッフとの食事、友人でない同業者との食事、業者の打ち合わせ、医院改装時の出、歯科医師会
これらを計算すると時給がかなり低くなることに驚くだろう。
経営者が仕事とプライベートの境なく働く事がかっこいいと思っている人もいるかもしれないが、私は全く反対の意見だ。
ちなみにあなたには”歯科医師”という肩書がなくなっても定期的に会う人はいるだろうか?
私は中学や高校の同級生はほぼ毎月あっているし、趣味の友人もいる。
仕事に時間を注ぎすぎていると気力が落ちてくる50代60代で、周りに誰もいないという事実に絶望するかもしれない。
・時間は自分でつくるもの
“時間がない”とよく言っている院長に伝えたい事は時間とは自分でつくるものであるという事だ。
その方法は2つある。「お金を出して時間を作る事」「仕事を断る勇気をもつ事」
「お金を使って時間をつくる」
自分の時間をつくるためにお金を使う。
レセのチェック代行、事務代行、コンサル業者にスタッフ管理を任せる。
ワックス掛けなど休診日に行うものはスタッフに時給を払って待機してもらう。それによって院長がわざわざ休日に医院に行かなくて済む。
またメンテで医院がまわるようにしたあとは、自分の治療アポをいれないで事務などをすることもお金を払って時間を買っているという事だ。
当然その間も株、投資信託に回したお金がお金を生んでくれている。
「仕事を断る勇気をもつ」
院長は仕事を作り出す事はとても上手いが断る事が苦手だ。自分のやりたい事に優先順位をつけて順位の低い仕事はしっかりと断ろう。
継承時の私の失敗は仕事を断る事をせず父、既存スタッフ、入社スタッフ、自分、医院経営これらすべてのバランスを取ろうとしてしまった事だった。これらにしっかり優先順位をつけて、無理な仕事はしっかりと断るべきだ。
継承する先生はとくに気を付けてもらいたいが、今あるものに変化を加えるという事は想像以上に精神力がいる。
何かを得るためには何かを捨てる必要がある
まとめ
今回は歯科医院とお金について持論をお伝えした。
年商1億前後の歯科医院はコスト管理をすることで、保険主体でもある程度の利益は見込まれる。
日本人や年配の人はお金を貯める事に美徳を感じる人が多いように感じる。しかし“お金は道具”でありただ貯めておくのは勿体ないしその必要もない。
患者数や年収といった数字に惑わされる事なく、必要なところにはお金を使う。
お金を有意義に使う事で時間や人との関わりをコントロールする事を意識しよう。
次回は私のように意識高い系が嫌いな人のために”頑張らないで年商1億を目指す方法”について記事を書いていく。