第2回は歯科医師数と病態との関係についてお伝えする。
前回のブログで歯科医師が大幅に減少している事は分かったが、人口も減少していくなかで歯科医師の需要はどうなっていくのだろうか?
結論からお伝えすると、歯科医師需要の減少よりも歯科医師供給の減少が早いので2040年頃まではかなりいい時代が続くだろう。
この場合のかなりいい時代というのは「Dr1人開業医」「勤務医」であり、分院展開をしているような大型歯科医院にはかなり厳しい時代となる。
マスコミの「歯科医師はワーキングプア」という歪曲報道に騙されずに歯科医師になった人達にとっていい時代になる。(そもそもワーキングプアの時代があったかは謎だが)
歯科医師数と人口の関係


上の図のように人口は減るが、歯科医院患者数は維持されるという統計がある。
つまり人口減のスピードよりも歯科医院患者減のスピードの方が緩やかなのだ。
そして歯科医院数はどんどんと減少していくため、今後は歯科医師(勤務医、Dr1人の院長)にとってとてもいい時代がくると予想できる。
Dr1人院長は集患コストを抑える事ができるし、クレーマーや自分に合わない患者はどんどんと出禁にしても患者はたくさんくるという時代になる。
さらに勤務医に関しては給料や福利厚生がどんどん充実するので、わざわざ高い借金をして開業をしなくても満足できる状態になるだろう。
最近は「こども歯科」「小児矯正」が流行っており、気道や食育の分野を積極的に取り入れて集患を目指す若手歯科医師がとても多いが、人口統計からみると明らかに時代錯誤になっている。
今後小児の人口は大幅に減るため集患にはコストがかかるようになる。
さらに患者が減ると難易度の高い症例を獲得してしまうリスクも高いため、小児メインで開業を考えている若手はかなり他院との差別化が必要になるだろう。
ちなみに私は矯正専門医で4年勤務しある程度矯正はできるが、今は矯正患者のほとんどを矯正医を月3回雇用し、治療してもらっている。
その理由はどんなに気を付けていても成長によっては、かなり難易度の高い症例になってしまう場合があり、それがのちのちストレスになるためである。
MRCや気道などを矯正をたくさんやっている一般開業医に数年勤務しただけで、矯正ができるようになった気で開業すると痛い目をみるだろう。
矯正は矯正医にまかせて、今後は高齢者を対象にした集患ビジネスがストレスも少なく正解だと思われる。
年代別1人当たりの歯科受診回数

年代別の歯科医院受診回数では子どもは5~9才が多く小学校高学年以降になると受診回数は大幅に減少する。
これは小児矯正の終了や思春期になり口腔内の関心が低下するためだと考えられる。
最近は「こども歯科」「こども矯正」とクリニックに名前をつけて小児を狙う傾向がある。
私も小児患者(泣いたり、矯正をやらない)は嫌いだが「こども歯科」とつけて宣伝はしている笑
しかし、わざわざ”小児矯正”や”気道”などをコスト(お金やスタッフ教育の時間)をかけて勉強するよりも、55歳~89歳をターゲットにしたほうが競合しなくてすむだろう。
55歳~89歳は時間がある人も多いので、メンテナンスに通いやすいし、最近はメンテナンスに通った経験のある高齢者も多いので小児よりもコストをかけずに集患できる。
歯科業界にも流行り廃りがあり、その分野のパイオニア的存在の歯科医院のみが集患や求人で利益を得られる。
歯科疾患の有病率

小児むし歯有病率は大幅に下がっている。

メンテナンスが広がったため20歯以上の歯がある高齢者も大幅に増加してきている。
歯科は高齢者になればなるほど歯数が減るため受診率は減る傾向にあるが、歯数が増える事で高齢者の治療の需要は増えている。

さらに歯数が増えることで歯周病も増えるので、メンテの需要も年々増えている。

少子高齢化により高齢者の受診率は急激に増えている。
個人的な感想ではあるが、歯科医師は自分の「理想」と「現実」を区別できていない人が多いように感じる。
開業はビジネスであり自分の理想とはかけ離れた所にある事がほとんどである。
セミナーで成功している先生のように自分もできると勘違いして意識高く時間とお金を費やしたにもかかわらず、保険治療をまわす一般的な歯科医院になった若手歯科医師を何人も見てきた。
開業を目指す歯科医師は参加セミナーをしっかり選択しないと、お金を払ってインスタに「勉強会参加しました画像」を載せただけになるだろう。
訪問歯科について
誰もが知っているが日本は今後超高齢化社会に突入する。そして訪問歯科の需要は今後も増していく事が予想される。
最近は学生からxやインスタからのDMで質問を受ける事も多いが、矯正と訪問歯科に興味のある学生が多い。
少子高齢化に伴い矯正は今後需要は減っていくが、訪問歯科の需要は増えるので訪問歯科にすすのは正解だと感じる。
当院もその状況を見越して4年前に訪問歯科部門を設立し売り上げ増加を考えた。しかし色々と状況を調べると訪問歯科の需要と供給は地域差がかなりあり、その結果当院は訪問歯科設立を断念した。
当院の状況は田舎で訪問歯科の需要はあるが、かなり手広くやっている訪問歯科が数件あり、施設への参入が難しかったのだ。
具体的にどの程度やっているかであるが
・摂食嚥下
・看護師も雇用
・デイサービスを設立
・スタッフ数は30人
このくらいの規模感の訪問歯科があると需要と供給のバランスが崩れ、新規参入で大きく利益を伸ばす事は難しい。
もし訪問歯科に参入しようと検討している院長は、市場調査を行い地域の訪問歯科の状況も把握したほうがいいだろう。
ちなみに地域の訪問歯科医院の現状を知りたいのであれば、訪問歯科のコンサル業者に市場調査を頼めば無料で行ってくれる。
訪問歯科の実地回数状況

訪問歯科の需要と供給については細かい地図があるので参考にしていただきたい。
この図を見ると、田舎でも訪問の実地が多い地域がよくわかる。
私の失敗からお伝えすると、単に田舎だからという理由で訪問歯科に参入しようと考えるのは辞めたほうがいい。1年ほど訪問歯科拡大の活動をしたが、私の能力ではまったく軌道にのせる事はできなかった。

居宅よりも施設の方が効率よく保険点数を稼げるため施設への供給が多くなっている。居宅は回るルートの選定が必要だったり、移動時間がかかり効率が悪いためあまり供給が需要に追い付いていない。

図にあるように全体としてはまだまだ需要はある。
需要はあるが歯科医師不足もあり開業医が訪問歯科まで手が回らないというのが現状である。
以前の「か強診」は訪問歯科が必須であったが、「口管強」では訪問歯科は必須ではなくなった。つまり「か強診」の保険点数という甘い蜜を与えても訪問まで手がまわらない開業歯科医院が多いという証明になった。
人口10万対歯科医師数と訪問時歯科実地歯科医院数


10万人あたりの訪問歯科実施医院は10万人あたりの歯科医師数とは大きく異なる。
今後訪問歯科をおこなう予定の歯科医師はこれらを比較して開業地を選定するといいだろう。

75歳以上の増加率が60%以上と高い地域での歯科従事者数は図の通りである。
これらの地域は高齢者が大幅に増加するが、歯科医師や歯科衛生士は少ない地域となっている。
この地域で「こども歯科」「小児矯正」をメインで開業したい場合は、他院との差別化をして集患をしないと経営的に厳しい結果になるかもしれない。
さらにこれらの地域で訪問歯科を拡大しようとしても患者は多いが、スタッフ求人に苦労する可能性が高い。
これらの地域で開業するなら高齢者をターゲットにしたほうがコスパがよさそうである。
田舎の開業医状況
郊外の歯科医院の経営状況をお伝えする。完全に私の感覚ではあるがおそらく全国の郊外の歯科医院の平均的な状況だと考えられる。
・場所
当院は東海地方にあり、県の中心部から電車や車で30分ほどの人口10万人程度の市である。開業医は約36件ある。
・売り上げ規模(たぶん)
年商2億以上の歯科医院:1~2件
年商1億以上の歯科医院:7件
年商1億以下の歯科医院:約28件
・勤務医数(たぶん)
親族以外で代診獲得ができている歯科医院(矯正医は除く):8件
・歯科衛生士数(たぶん)
衛生士10人以上在籍:2件
衛生士5~9人在籍:5件
衛生士5人以下:約34件
・開業医の年齢(たぶん)
30代:4人
40代:8人
50代以上:約24人
・地方開業医の現状
年商2億を超える歯科医院は10万人規模の市では1~2件で、年商1億~2億の歯科医院は多くても10件程度と考えられる。
以前もお伝えしたが年商が高い歯科医院の院長は若く、年商が低い歯科医院の院長は高齢だ。高齢院長はそもそも借金もないだおろうし、子育ても終わっており無理やり年商を上げる必要がない。
マスコミが報じる歯科医院の平均年商は院長全員が全力をだした数値ではないのだ。
当院はチェアーが10台(治療4台、メンテ6台)あるがメンテは土曜や夕方など半年ほど予約がとれないという状況になっている。治療は2週間程度で回っているようである。
集患に関してでは、HPは地域で検索順位1~3位であるが、看板やイーパークやネット広告は出しておらず、広告費はHP管理費の月2000円のみであり、月の新患数は20~40人程度だ。
メンテが軌道にのればかなり患者が安定する。HPの検索順位は大切であるが、看板やSEOなどは必要ないと考えられる。ましてや経営コンサルの導入は全く必要ない。

ちなみに2024年は経営コンサルの倒産が過去最多になったらしい。
他社のコンサルをする前に自社のコンサルをしたほうがいいだろう。
まとめ
今回は2回に分けて歯科医師不足問題について考察した。
今後は人口減少がすすむがそれ以上に歯科医師は減少する(特に開業医)。そして地方になればなるほどそれは顕著になるので田舎開業は歯科衛生士さえ獲得できれば、安定した利益を確保できるだろう。
私の学生時代もそうだったが矯正はかなり人気であり、それは「矯正=儲かる」というイメージがついているからだが、今後は少子高齢化、う蝕減少、一般歯科の矯正参入などにより厳しい時代になるかもしれない。
小児や矯正をターゲットにするより高齢者の顧客を獲得するほうがコスパがよさそうだ。さらに高齢者は比較的時間の融通がきくので、午前などのアポを埋めやすくなり診療時間短縮にも有効だ。
訪問歯科は今後需要はかなり増えるが既存歯科医院の影響を受けるので、本格的に新規参入する場合は市場調査をしっかりと行ったほうがいいだろう。
次回は「歯科医師の実力と運」について考察していく。